ネコス19 妹編

お店の人間模様が主になっている短編SSです
後先考えずゆるい感じで進行していますが、
今回から妹編の〆に入るのため、連作となります。
よろしければお付き合いください

ネコス19  青葉さんの憂鬱編・その1


 みなさまこんにちは。
 『うつは甘え』と言う人間とは絶対に仲良く出来ない喫茶店「ネコス」の美人マスターです。
 人間、それぞれ悩みを抱えて生きています。悩む暗い気持ちが極端に表に出てきただけで、それを甘えだの何だのとしたり顔で言ってほしくありません。

 と、私の考えをみなさまに伝えたところで、改めて現状を把握いたしましょう。
「うっうっうっうっ……しくしくしくしくしく」
 暗い空気を全身にまとわせ嗚咽を漏らしているお客さんを前にし、私はさきほどからずっとこう思っております。
(うっぜぇです。マジに)
 しかし美人マスターの私は優しいので、お店から追い出すような真似は出来ません。
 そう。かれこれ一時間以上カウンターの机に突っ伏して泣いていても、お客さんはお客さんですからー。
「ううっ……ぐす……青葉さん……ううううっ」
 青葉カウントこれで128回目です。うっとうしいことこの上ありません。
「こんちゃー。って、暗っ! なんだこの雰囲気」
「あーユカリちゃん。待っていましたよー」
 バイト美女の登場です。正直、私一人ではこの少年をどう処理していいか困っていたので非常に助かります。
「よー、なんだこの状況。客が一人しかいねーじゃん」
 口の悪い美人さんは言いにくいことをスパッと言ってくれました。
 でも、今日の客入りが悪いのは絶対にこのうつロード猛進中の少年が原因です。
 実際、店の入り口で引き返していくお客さんをもうすでに五人ほど見送っています。じめじめとした空気をここに来るお客さんは望んでいない、という良い証拠です。
「というわけで、この少年をどうにかしてください」
「また無茶振りか。だいたい、コイツ誰だよ」
「青葉ちゃんのストーカーです」
「違います! ボクは、青葉さんの彼氏です!」
 いきなりストーカー君が顔を上げ、猛然と抗議してきました。
 ……のやろう、ウザイほど落ち込んでいるくせに人の会話はしっかり聞いてやがるんですね。
「そうでしたそうでした。青葉ちゃんの元カレでしたねー」
 心中をおくびにも出さず、笑顔で対応してあげます。私、ご近所でも評判の美人マスターですから。
「う、ううう……うわーーーーん、あおばさぁぁぁぁぁぁんっ!」
 ついに泣き出しやがりました。やっぱり、元カレという表現がまずかったのでしょうか?
「ああもう、男の癖に泣くな。ほらっ」
「うぐ……」
「ほおぁわぅい!?」
 ユカリちゃんが少年の頭をなでなでしています!
 ピュアな目で見れば、それは幼い子供をなだめる姉キャラの癒し系スチルですが、この私にそんな感想は抱かせません!
 あの小僧、私ですらされたことのない行為を、なんの苦労もなく享受していやがるのです。これが平静をなくさずにいられましょうか!
「ユカリちゃん! 私もなでなでしてください!」
「無理」
 シッシッと手で払われました! どっかいけってことですか? 私、ここのマスターですよ!?
「うう、うわーーんっ。この、ツンデレ美女ウエイトレスーーーーーー!」
「ちょっと待て、それは罵りか? 罵りなのか!?」
 背後でユカリちゃんのツッコミが聞こえますが、もう私は知りません。ユカリちゃんがなでなでちゅっちゅっしてくれるまで今日は帰りません!
 ショタに手を出す美女は一人でお店を回しやがればいいんです。えーん。
「おい、マスター。どこ行く気だコラ!」
 お店の出入り口は目の前です。ユカリちゃんがどんなに叫んでも、私は愛の言葉以外ではとまりません。
「べーっ、です!」

 ――カラン――

「ほぇ?」
 お店の、来客鈴が鳴りました。
 私の目と鼻の先に、木製のドアの、ちょうど角になった部分があります。
 ちなみに私は、全速力です。たとえ愛の言葉が叫ばれても、すぐには止まれません。
 …………というわけで。
「むぎゃぅ!」
 顔面を思いっきりぶつけてしまった私は、残念ながらここで意識を閉ざしてしまいます。
 なんで、こんなときにお店のドアを開けやがるんですか。
 ったく、空気の読めない、お客さん、です…………。

 * * *

 気を失ったマスターは背中から倒れこみ、ぐるぐると目を回している。
 当たり所が悪かったのか、、彼女の鼻っ柱は赤く染まり、加えて言うなら赤い筋がひとつ顔面を流れてもいた。
「兄さん、床で寝るのは不衛生だと思いますが」
 気絶させた張本人……青葉は、冷たい目線と温かみの一切ない言葉で、床に寝そべるマスターを見下ろしている。
 普段からツンツンしているユカリですら、マスターが哀れに思えてくるようなシーンだった。
「こんにちは、ユカリさん。うるさい兄さんが消えたところで御休憩しませんか?」
 青葉はマスターを踏み越え、静かな微笑でユカリに近づく。が、ふいにその歩みがピタリと止まった。
「あ、あああ……ああっ、青葉さーーーーーーん!」
「……うげ」
 来客の正体が自分の元彼だと気づくなり、彼女はいつもの鉄面皮らしからぬ台詞で顔をしかめる。
「青葉さん青葉さん青葉さん!! ボクは、彼氏です! ストーカーでも元カレでも彼女でもなく、あなたの、彼氏なんです!」
「ユカリさん、拳銃を」
「あるのか!?」
「兄さんの店なら、何が出てきても不思議ではありません」
「ボク、振られたけど彼氏だよね!? それでいいって、この前青葉さんが言ってくれたんだよ!?」
「ユカリさん、RPGの装填を」
「店ごと木っ端微塵にする気だっ!」
 突っ込みキャラとしての本懐を余すことなく発揮するユカリだが、このまま騒いでいても事態は収拾しないということぐらい、彼女はとっくに気付いている。
 マスターならば何がしかの奇策や詭弁を用いてこの場を納めるのだろうが、あいにくそこまでの小ざかしさはない。
 だから、というわけではないが、彼女はいまのドタバタを打破する一番手軽な方法を選択した。
「二人とも、いい加減にしろっ!!」
「あ……」
「う……」
 美女の荒げた大声に、騒いでいた少年少女の動きが止まる。
「いいか、いまネコスは営業中で、つまり俺もマスターも仕事中なんだよ! それをお前らはドタバタギャアギャア、話し合おうともしないで、なんなんだ! ここはお前達の遊び場じゃないんだぞ!」
「……説教くさい面があるとは、意外でした」
「茶化すな!」
「っ……ごめんなさい」
「ボクも……すいません」
 美女の迫力に負けたのか、少年少女は素直に頭を垂らす。
 うって変わってしゅんとうなだれる二人の態度は、逆にユカリを狼狽させた。
「ああいや、俺も、言い方がきつかった。すまん」
「ツンデレですね、わかります」
「さすが青葉さん。博識だよぉ」
「……をい」
 やっぱり、もっときつく怒ってもいいような、そんな気がした。





つづきます


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
管理者の詳細

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
FC2投票
無料アクセス解析
応援バナー
ちぇ~んじ!~あの娘になってクンクンペロペロ~
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR